【注目の岩田健太郎教授が分析】おにぎりって素手で握っちゃいけないの?
<感染リスクについて考える>細菌感染を阻む当たり前の基本原則~
インフルエンザ なぜ毎年流行するのか⑥
◆手を洗う=感染源を断つこと
手袋を着けておにぎりをにぎるのは別に悪いことではありません。感染症は、「感染経路」を遮断してやれば防げるのです。素手についた菌とトキシンがご飯に直接接触することで伝播が起きます。だから、間に手袋とかラップがあれば、伝播は起きない。簡単ですね。
とくに大量の食品を扱う弁当屋さんとかコンビニのおにぎりを作っているところでは、マスクや帽子、手袋でガッチリ防御しておにぎりを作っていると思います。大量のおにぎりを作るところで食中毒が発生したら、その被害はとても大きなものになりますから。健康被害だけでなく、食品衛生法による営業停止や、報道による企業イメージの低下、減収など様々な形で大きなダメージをもたらします。食品関係の企業って本当に大変ですね。
では、家庭でおにぎりを作るときは、どうか。
確かに手袋をしておにぎりを握っても良いと思います。素手で握ったほうが美味しい、真心がこもっている、という意見も聞きますが、素手のほうが美味しいというデータはありませんし、根拠薄弱です。真心? 手袋ごときで減じてしまう「真心」は、本当の意味での真心とはいえないのではないでしょうか。この手の「素手信仰」は根拠のない迷信に過ぎないとぼくは思います。
ただし、黄色ブドウ球菌は手だけでなく、鼻の穴にくっついていたりします。ついつい癖で鼻を触ってしまう人がいます。手袋で完全防御していても、その手袋で鼻をいじっていたら、やはり食中毒のリスクは高まります。料理中は、鼻を触らないように注意しましょう。
あと、石鹼と水できれいに手を洗えばほとんどの細菌もエンテロトキシンも流れとられてしまいます。感染経路を遮断するのも良い方法ですが、そもそも感染源がなくなってしまえば、感染症は絶対に起きません。こういう基本原則を理解するのはとても大切です。ですから、手洗いをちゃんとやっていれば、必ずしも手袋をしなくてもたいていは大丈夫です。お寿司屋さんも、素手で握ってるでしょ。
まあ、そういうことで(たいていの問題がそうであるように)、手袋をするかしないは「どっちでもよい」ということになります。少なくとも家庭のレベルでは。ちゃんと手を洗っている限り。
ただし、たとえ手袋をするにしてもちゃんとそのまえに手を洗いましょう。手袋には菌やトキシンが通り抜けられるような、小さな穴が開いていることもしばしばあるからです。だから、例えば病院でも医療従事者は手袋をする前に手指消毒といってアルコール製剤で手をきれいにしています。手袋してる、は「手を洗わなくて良い」という免罪符ではないのです。気をつけましょう。
ぼくも、おにぎりはよく握ります。ラップで握るときもありますが(手にコメがつかないので……)素手で握るときもあります。手袋は着けないかな……めんどくさいし。
料理はとても楽しいですし、食事はさらに楽しいですね。しっかり手を洗い、楽しくて美味しい食生活をエンジョイしたいものです。
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KEYWORDS:
『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』
著者/ 岩田健太郎
本屋さんの「健康本」コーナーに行くと、たくさんの健康になる本とか、病気にならない本とか、長生きする本とか、若返る本とか、痩せる本とかが売っています。ところが、そのほとんどがインチキだったり、ミスリーディングだったり、センセーショナルなだけだったり。要するに「ちゃんとした」本がとても少ないのです。そういうわけで、感染症や健康について、妥当性の高い情報を提供しようと、本書をしたためました。